2017年2月27日月曜日

ヴァルプルガの詩/大神龍丸

小野賢章さん演じる犬神龍丸の感想です。


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あの時、君がトラじゃなく
ボクを選んでくれた事、
凄く嬉しかったんだ。
それだけで報われた気がした。

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ずっとコンプレックスだったから。
力の強いものしか
生き残る事が出来ない一族の中で、
大した力もない自分が、
兄のトラのおかげで、
おまけみたいに長の名代になってる事が。

いつだってトラには敵わなかった。
長候補だと見込まれている
攻撃力の強いトラに対し、
彼は治癒能力に長けていて。
でも、それは彼らの使命である
禍を払う事には使えない。
役に立たない力。

力の弱いものは
一族の中に居る事が許されず、
力を封じられ、
人狼ではなくただの狼として放たれる。
群れを持たない、
狼として暮らした事のないものが、
一人山の中に放たれて
生きて行けるハズなどないのに。

だからいつも怯えていた。
いつか自分も必要ないと、
一族の中から追い出されるのでは?と。

高い治癒能力を持ちながらも、
その力を使う度、夜は熱にうなされる日々。
けど、誰にも言えなかった。

だって自分はただでさえも役立たずなのに、
その上熱の事を知られたら、
出来損ないとみなされて、
追い出されてしまうかも知れなかったから。

けれど、守る対象である彼女に、
そんな弱い部分を見られてしまった事から、
おかしくなってしまった。

イヤ、本当はそうじゃないのかも知れない。
もっと前からだったのかもしれない。
小さい頃、出会ったあの日から、
ボクは彼女が好きだったのかも知れない。


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隠世からやってきた化物。
禍を撒き散らすそれを
追い払う事が大神一族の使命。
そしてその化物は
なぜか彼女に執着しているため、
必然的に
彼女を守る事になったリュウとトラ。

ある日、執拗に彼女を追い回す化物が、
彼女に自分の血脈を与え、
隠世に唯一なる貴重な実を食べさせた。

ざくろに似たそれは、
人が口にすれば不老不死になり、
人狼の彼らが口にすると、
その力を強化するという。

そうして与えられた彼女は
普通の人間から、次第にあの化物
…謎の青年と同じものに
作り変えられて行った。

そんな彼女の周りには、
彼女を狙う禍が現れ、
その禍に触れた人々が体調を崩し、
学級閉鎖、休校…と、
最終的には市から
避難勧告が出される程の騒ぎに。

禍に触れると、異形となる彼女は、
隠世の者にとって、
格好の餌となってしまったため、
被害が広がると共に、
大神一族の屋敷に匿われる事に。
何度か泊めてもらった事のあるそこに、
今度は嫁候補という形で
お世話になる事になった彼女。

そうして先代は彼女に告げた。
トラかリュウか、
長にふさわしいと思うものを選びなさい。


…と。

実を体内に宿し、
あの青年の血脈が
心臓に植え付けられている彼女の血は、
それだけで彼ら一族の力になる。
けれどその血を与えられたものは、
血に魅せられたかのように狂い、
理性を失くし、
貪り尽くしてしまうかも知れない。

彼女にとってはとても危険な選択。
それでも彼ら双子を信頼しているから。
今まで沢山守ってもらったから、
自分で役に立てる事があるのならと、
嫁として大神一族のお世話になる事を決意。

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その時もトラが選ばれるだろうと思った。
誰もがトラが長にふさわしいと
思っていたから。
そしてトラ自身もそれを望んでいたから。

長に全く興味の無かった彼。
けれど、事情が変わってしまった。
だって彼女が長の嫁となるのだから。

だからトラが選ばれる、
トラがふさわしいと思う心の片隅で、
自分が選ばれたいという気持ちがあった。

そうして彼女に選ばれた時、
本当に嬉しかった。
だって、自分という存在を
認められた気がしたから。
彼女に、ずっと小さい頃から
好きだった彼女に。

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そうして彼女の血を与えられた事で、
今まで霧を出す事と治癒の能力とは
別に使われていたけれど、
霧に治癒の力を宿す事が出来るように。

すなわち、その霧の中で戦うのなら、
自分の味方たちは、
無敵状態で居られる事になる。
傷を与えられても、
霧によりすぐ回復させる事が出来るから。

とても敵うハズなどないと思っていた化物。
けれど、この霧の中で
トラの攻撃力を使えば勝てるかもしれない。

そうして長となった
リュウの指示で最終決戦が。
自分が霧を発するから、
トラを中心に牙が攻撃するという作戦。

けれど、元から力を使うと熱を出す彼。
今回の戦いであの化物を倒すためにかかる時間、
その時間の間中霧を持続させる事は相当な負担。

だから彼は考えていた。
この戦いで死んでしまうだろうと。

そうして詳しい理由を話す事なく、
双子の兄に決戦後に長を譲る事を発表し、
挑んだ戦い。

リュウの霧と、
機転のおかげで無事に化物を撃退した大神一族。
けれど、その戦いの一番の功労者であるリュウは、
戦いが終わった直後倒れてしまった。

彼女の血には力があった。
だから彼を助けるためなら、
自分の血を与えたい
…そう申し出たけれど、
化物自体が消滅した事により、
彼女の血液に特別な力は
もうなくなってしまっていた。

助けられない、何も出来ない。
大切な人が死んでしまうかも知れないのに。


そんな中、
ただ傍に寄り添う事しか出来ない彼女。

それでも彼が好きだから、
死なないでと強く願い、
その唇に自らのそれを押し当てると、
彼が目を開いた。

そうして生きている事に驚いた彼でしたが、
良かった。
まだ君に言ってない事があったから
」と呟き、
小さい頃からずっと、君が好きだよ…と、
その一言を告げて、再び目を閉じてしまった。

目を閉じた彼からは、鼓動が感じられず、
ただ愛する人を失ったと涙する彼女。

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所がその後、奇跡的に一命を取り留めた彼。
けれど、彼の中から人狼としての力は消え、
予定通り兄のトラが長の座につき、
力を失った彼は、
里に降りて一人暮らしをしながら、
再び彼女と同じ学校に通う事に。

あの時は嫁として大神一族の元に行った彼女。
でも、今はただの恋人同士の二人は、
普通の高校生らしく、
恋愛を楽しんで過ごせるように。

人狼としての力は失ったけど、
一番欲しかったものは手に入ったから。
寧ろこれで良かったのかも知れない。
ボクも君と同じ者になる事ができたんだから。


そんな風に思える彼は、
今ではただの恋人になってしまった彼女を、
いずれ本当に嫁として
迎えるつもりで頑張っている途中。

そう遠くない未来、本当に夫婦となって、
きっとしあわせな家庭を築く事でしょう。