2017年2月18日土曜日

7'sCarlet/真相/ハナテ

緑川光さん演じるハナテと真相の感想です。


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だとしたらあの子と言う存在はなんなのだろう?
狩られるだけにあるというのか?

ただ長い時間を生きて
…いや、過ごして来た彼にとって、
彼女との出会いは特別なものだった。

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死神。
そう名乗った彼は屍者で、
もう長い年月を過ごして居た。

人の中には時に特別な魂を持つものが居て、
色素の薄い、写真に赤目で写る人は要注意。
あなたの魂は特別で、
屍者にとっては「エサ」となるから。

彼もその昔、
そのエサと呼ばれる人を狩った事から、
乾きから解放され、
もうどれくらいの月日が流れたのかも
分からない程の長い時間を過ごして居た。

だから、梅雨が明けて、
赤い紫姓草を見つけると、
狩るものと狩られるものを見物し、
それを唯一の楽しみとして居た。
そう、あの夏までは。

屍者の目に写るモノクロの世界の中で、
アルビノと呼ばれる色素の薄い彼女は、
キラキラと輝いて見える。
まるで屍者に自分が獲物であると
知らせるかのように。

そんな彼女が新しく訪れた屍者に狙われた時、
彼の胸はドクンドクン音を立てた。

あの子を助けなければ。

なぜだかそう思い、
衝動的に彼女に近づき、
更にはお節介に危険から身を守る
アドバイスまでしてしまった。

長い時の中で、
目立たずにひっそりと周りに溶け込むすべを
身につけて居たはずなのに。
彼女が絡むと放って置けなくなってしまった彼。

結局何度も危ない目にあう彼女を助け、
最終的には、
屍者ばかりでなく、
当時高校生だった月読に川へと突き落とされ、
殺されそうになった彼女を助けた時、
彼はあの街を離れた。
彼女を助け、共に生きようと。

長い時間の中、
人の記憶の曖昧さを利用し、
その記憶に入り込むすべを身につけて居た彼は、
五年も経つ頃には彼女の兄になって居た。
両親はもちろん、彼女も、
そして周りの人間全てが、
なんの違和感も持たずにそう認めるほどに。

そうして彼女を守りながら、
自分が満たされている事を感じた。
イワナガヒメの呪いでただ長い時を過ごし、
いつ終わるとも知れない時間の中で、
初めて知った幸福。

けれどある時彼は自分が弱っているのを感じ、
彼女の幼馴染のヒノを呼び出し、
自分は少しここを離れるから、
必ず彼女を守るようにと託した。
また戻るつもりだった。

けれど、長く奥音里を離れて居た彼は、
幸せに浸かり感覚が鈍って居たのだろう。
紫姓草の咲く谷で、
アッサリと屍葬組の餌食に。

捕らえられた彼は、
一年にも及ぶ拷問を受けたが、
途方もなく長い時間を過ごしている彼は、
人間には計り知れない程の
苦しみや悲しみを知っているから、
彼らの拷問など、どうと言う事もない。

けれど、彼の世話をして居た屍葬組のものから、
アルビノと言う言葉と彼女の名を聞いた時、
彼はまた胸のざわつきを覚えた。

ここは彼女にとっては危険な場所。
何としても助けなければ。
何としても守らなければ。

だから彼は軟禁された牢を脱出し、
彼女とコンタクトを取るべく風厘館へ。
そうしてこっそり置いた手紙は、
無事に彼女に届き、再会を果たした。

所が、当時から彼女を狙って居た月読が、
屍者となり、ここで彼女を狙って居た。

そうして彼は決意した。
紫姓草は自分と一心同体。
あの花が枯れたら、自分の命も尽きる。
すなわち、紫姓草がなくなれば、
自分も他の屍者も居なくなり、
恐らくその後屍者が蘇る事もないだろう。

彼女の事は愛おしくてたまらない。
ずっとそばに居たいし、
何があっても守りたい。
たとえそれが
自らの命を犠牲にすることだとしても。

だから、月読ともみ合って居た時に、
彼女に花を燃やせと頼んだのに、
彼女は出来ないと、
その願いを聞き届けてはくれなかった。

お兄ちゃんと一緒に居たい。
離れたくないと。

けれど、この花がある限り、
彼女は命ある限りエサとして生きる事になる。
だから守りたかった。

その時、泣いている彼女の背後から、
ヒノが現れた。
彼はヒノに花を燃やすよう頼んだ。
ヒノは彼の気持ちを汲み、
彼女に変わり紫姓草の花へとマッチを投げた。

花が燃えると同時に、
月読は紫の花びらと消え、
炎の中、彼だけが残る。

そうして彼は彼女への想いを告げて、
キスをした。
どうかここを出て生きて欲しいと。
想いは全てヒノに託したから。

ヒノもまた、彼の想いを受け取り、
谷から彼女を連れ出した。

忘れない、お兄ちゃんの事を絶対に。

彼が消滅すると同時に、
恐らく彼女の中から彼の記憶は消えてしまう。
そう知っている彼女は、
それでも忘れないと告げて、
愛しい人と別れた。

その後、自警団に保護される二人は、
今までの出来事を全て忘れ、
自分たちは山で迷ったと思って居た。

けれど、彼女は涙が止まらなかった。
何かはわからない。
けれどひどく大切なものを亡くしたと、
そんな消失感から。
兄の記憶を失った彼女は、
心に穴が空いたように感じながらも、
日常に戻った。

両親は相変わらず海外で、
家には彼女一人。
誰も居ないリビングに「行ってきます」
と告げると、「行ってらっしゃい」の声が。

誰も居ないリビング。
知らない声。
でも、なんだかとても懐かしい。

季節は夏。
庭には幼い頃に奥音里で
ソウスケに貰った紫の花、紫姓草が
一輪咲いて居た。

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紫姓草の咲く場所に、
特別な想いを残した屍者が蘇る。
愛する彼女の元に、
またいつか戻れる時が来るのかも知れない。
あの花がそこにあるのだから。