2017年3月15日水曜日

百花百狼/黒雪

下野紘さん演じる黒雪のネタバレ感想です。


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いいんだよ。
おまえが守れるなら。
オレの記憶がなくなろうと、
心が壊れようとそんなのどうだっていい。


たとえ一緒に居られなくても、
おまえを守れればそれでいい!


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黒雪の術、影喰。
強すぎるが故に、術者にかかる負担の大きい術。
その術を使えば使う程に、
彼から大切な記憶がこぼれ落ち、
心が次第に壊されてゆく。

そうして彼の残されたものは、
彼女だけだった。

そう、空っぽになった彼の記憶。
けれど、唯一覚えていた。
大切な彼女の事だけは。

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それはまだ彼が8つの時、
彼は任務で甲賀を離れた。
行き先は加賀。

当時から彼女が大好きで大切だった彼は、
そんな彼女を守る為に、
強くなりたいからと、自ら志願した。
たった8つで。

そうして加賀忍軍の長により、
術の修行が始まった。

どれくらいの時間だろう?
ひたすらに続く常闇の中、
幼い彼は一人ぼっち。
泣こうが叫ぼうが、誰も助けてくれない。

幼い子どもには暗いだけでも恐ろしいのに。
更にそんな彼には加賀忍軍の長により、
幻術が掛けられていた。

暗い中で見せられる恐ろしい幻術。
常闇の中襲い来る幻術に、
次第に感覚が麻痺して行く。

一体どこまでが幻術で
どこからが現実なんだろう?


分からない、怖い。
でも、出られない。
誰も助けてくれない。

何度も何度も故郷を思い、
みんなと彼女と過ごした楽しかった日々に
戻りたいと涙した。

そんなある日。
もう時間の感覚もなく、
常闇にどれくらいの時間いたのかも分からない中、
彼は気づいてしまった。
次第に自分の記憶が消えている事に。

怖くなった。
仲間の事が思い出せないし、
自分が誰なのかも分からない。
どうしてここにいるのかも。

何もなくなる、消えてしまう。

そんな恐怖に襲われた時、
彼は気づいた。
何もかもを失いそうな自分だけれど、
そんななか、
たったひとつ残ったものがある事に。
それが彼女だった。

だから彼は彼女を想い続けた。
いつか再会出来る日を夢見て。

そうして耐え続ける中、
常闇の中だというのに、
彼には影が見えるようになった。
彼が動けば影も動く。
何も誰も居ない空間で、
影だけがいつも彼の側にいてくれた。
ずっと彼に寄り添うように。

そんな辛い修行の果てに、
彼は影喰を身に着けた。
そうして暗殺を中心に様々な任務をこなし、
幼いながらも残忍な暗殺者となった彼に、
可哀想に、もう人間じゃないんだ
そんな声が聞こえてきた。

そうか。
失くしたのは記憶だけじゃないんだ。
オレは心も失くしてしまったんだ。
もう人ではいられない程に。


そんな幼少期を経て、
一人前になった彼に、
最後の任務が与えられた。
それをこなしたら、
彼は自由を得る事が出来る。
やっと彼女の元へと戻れる。

それが秀吉暗殺だった。

依頼主は加賀忍軍の長と、甲賀の長。
二人の目的は秀吉を暗殺し、
再び戦乱の世にする事。
忍びは戦乱の世でこそ活躍出来る存在だから。
このまま平和が続くと、
忍びが滅んでしまうから。

そうして京へと向かう彼は、
任務で同じく京へと向かう
かつての仲間たちと出会った。

ひと目見て驚いた。
だった彼女は
彼が想像していたとおりの
女性になっていたから。

それでもすぐに声を掛けられなかったのは、
彼には彼女以外の記憶がなかったから。
そっと様子を伺いながら、
かつての仲間を記憶する為の
時間が必要だったから。

そうして彼女たちに合流した彼は、
一緒に任務に参加する事となり、
共に京へと登った。

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京では石川五右衛門が活躍していて、
その五右衛門を捕らえる為の
情報収集が彼らに与えられた任務だった。

仲間たちと協力して、
無事に情報を入手し、
更には京都所司代が取り逃がした五右衛門を
彼女が伏見城で捕らえた。

その様子をたまたま見ていた秀吉に
呼び出された彼女は、
その直後秀吉が暗殺された現場に居合わせた事から
秀吉殺しの罪人にされてしまう。

本当の犯人は、
甲賀と加賀の長から依頼を受けた彼だったのに。

その後、捕らえられた彼女を
単身助けに来た彼。
無事に逃げ出せたものの、
今回の秀吉殺しが五大老により、
秀吉の息子、秀頼の後見人を決めるために
利用されてしまう。

五大老がそれぞれ忍びを放ち、
大罪人である彼女を討ったものが
秀頼の後見人になれる…と。

一方何も知らない二人は、
北を目指していた。
甲賀以外何も知らない為、
彼に勧められるまま北を目指す。

この時彼女は何も知らなかった。
怪我をして現れた彼は、
仲間にやられたと言っていたけれど、
実は仲間をやったのが彼で、
彼についていた傷は
彼自身が付けたものだという事も。
彼がそうまでして、
彼女を自分だけにしようとした理由も。

だってずっと彼女だけだったから。
唯一覚えていた大切な愛おしい彼女。
あんなに辛い中、
ただひたすらに彼女だけを思っていたのに。

彼が久しぶりに目にした彼女は笑っていたから。
彼がその場に居ないというのに、
仲間と笑っていたから。

悲しかった。
こんなにも彼女を彼女だけを思っているのに。
辛い時間を
彼女だけを支えに耐え抜いて来たのに。

だから全部手に入れたかった。
彼女の笑顔も全部。
そうしてここから先の世界、
オレだけがいればいい。

欲しいものはおまえだけ。
オレの世界にはおまえしか要らない。
だからおまえの世界にも、
オレしか居なくなればいい。


追忍など放たれていないのに、
彼は嘘をついた。
甲賀の忍びもおまえの命を
狙っているに違いない…と。

五大老の忍びに命を狙われ、
彼を巻き込んだと後悔を抱え、
更には仲間にも命を狙われていると思った彼女は、
次第に彼に依存するように。

だって彼女にも彼しかいなかったから。

その後、彼に殺された忍びを見た半蔵が、
その術が影喰であると気づき、
秀吉暗殺の犯人に気づいた。

そうして甲賀に赴いた半蔵は、
今度は甲賀の忍びたちと共に、
彼らを探した。

あんな危険な技を使う忍びを
自由にさせておく訳にはいかないと。

甲賀の仲間たちも、
秀吉殺しの事を知り、
彼女を守りたいと必死に彼女を探した。

そうして一度は彼と引き離され、
甲賀の仲間たちと
行動する事になった彼女だったが、
その気持は依存だ」とみなに言われ、
自分の気持を見つめる為にも、
秀吉殺しを彼に依頼した
本当の犯人を探すためにも、
彼と向き合う事を決意。

一方彼は加賀での師であった
加賀忍軍の長を彼女を守る為に倒し、
五右衛門に自分が側に居たいからと、
彼女を連れて行くのは押し付けだと言われた事から、
彼女との事を考えた。

依存だと言われても、
彼女を想うオレ気持ちは本物だ。
けど、側にいられない。
彼女は優しい人だから。
彼女の目指す世界は争いのない世界だから。
そんな世界にオレは要らない。


沢山の人の命を奪い、
影に縛られ、業を背負う彼では、
彼女にふさわしくない。
彼女の未来に居てはいけない。

そう気づいてしまった彼は、
彼女から離れる事を決意した。

それでも、彼女を守りたいから。
彼女の目指す世界を守りたいから。
だから彼は加賀の長だけでなく、
彼女の父である甲賀の長を討つ事を決意。

だって、あの男は彼女を利用するから。
自分の為に何度でも平気で。

そうして彼女の世界に必要ないものを排除し、
自分も消えるつもりだったのに。

半蔵たちと共に彼女が来てしまったから、
彼を庇ってくれたから。
再び二人で逃げる事に。

生きるも死ぬも共にある縁。
だから側に居たい。


そう言う彼女は、
彼と同じ想いなのだという。

人は依存だと言うけれど、
彼女を想うと切なくて苦しくて。
ただ涙があふれるような想い。

その想いがなんであれ、
互いに想いが同じなのだから。

だからあなたの罪を
私にも背負わせて欲しい。
償いながら生きて行きましょう。


そう言ってくれた彼女だから。
彼は人としてこの世界に繋ぎ止められた。

大丈夫。
彼女がいれば大丈夫。
オレはきっと人で居られる。


心が彼女と共にあれば、
後はもう大丈夫。
失った思い出は戻らなくとも、
また1から沢山の思い出を作ればいいのだから。

その後、彼は傷つけた甲賀の仲間たちに、
彼女と共に謝罪し、
昔のいたずらっ子だった時のように、
散々伽羅に怒られて、そして許された。
だって、彼は今でもみんなの仲間だから。

その後、甲賀の長は罪人として捕まり、
彼は徳川の忍びとして、
半蔵の監視下に置かれる事に。

そんな彼の傍らには、
優しく微笑む彼女がいた。
甲賀でも徳川でも、
あなたがいる所が私の居場所だと。


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もう決して離れない。
ずっとずっと側にいる。


今度は嘘もごまかしもない世界で、
彼女を守り続けるから。